宮城 道雄 作 垣隣り読み手:中島 由美(2025年) |
普通の目の見える人が、自分の家のあたりの景色に親しみを持って見るのと同様に、私には自分の住んでいる近所の音が、私の生活の中に入っているわけである。これは自分の住んでいる周囲の音が懐しいのである。
気候が暖かになると、戸障子を明けるので、近所の音が非常に近くなる。私の住んでいる家の直ぐ裏で、垣一重へだてた向うの家で、いつも年とった御主人の懐しい声が聞こえる。
その方の耳が少し遠いらしく、家人の方が大きな声で話される。私が引越して来て以来、いつもその声を聞くので、私はいつか一度お話ししてみたいと思っていた・・・