田中 貢太郎 作 北斗と南斗星読み手:齋藤 こまり(2025年) |
趙顔という少年が南陽の平原で麦の実を割っていると、一人の旅人がとおりかかった。旅人は管輅という未来と過去の判る人であった。その旅人は少年の顔を見て、
「お前さんは、なんという名だ、気の毒なことだ」
と言った。少年は気になるので麦を割ることを止めて訊いた。
「なにが気の毒ですか、私は趙顔というのですが」
「そうかな、お前さんは、二十歳を過ぎないで、早世をするよ」
少年はおどろいて旅人の前へ往って地べたへ顔をすりつけた。
「早世することを知っていらっしゃるなら、長生することも御存じでしょう、どうか教えてください」・・・