岩野 泡鳴 作 黒き素船読み手:イトー ゲンヤ(2025年) |
黒き 素船 を 透かし見れば、
砂 に しやがめる 影 と まがひ、
沖 の 小島 の 薄き 見れば、
人 の 思ひに 沈む けはひ、
空 に 住へる 月 を 仰ぎ、
寂びし わが身 の 魂 と 見たり。
われは そのまま まなこ 閉ぢて、
消ゆる 世界 を 今ぞ いだく。
浮けよ、沈めよ、千々の なやみ、
千々の 悲み、身をば 乗せて。
苦なるいのち は――繁き矢 なり――
積みて 重なる 夢 の 小船。
さして 行くへ を こゝに 問はじ、
この夜、この時 われは 活きん。