織田 作之助 作 ヒント読み手:宮松 大輔(2025年) |
彼は十円持って喫茶店へ行き、一杯十円の珈琲を飲むと、背を焼かれるような後悔に責められた。
隣のテーブルでは、十二三の少年が七つ位の弟と五つ位の妹を連れて、メニューにあるだけのものを全部注文していた。そして、二百円払って出ようとするのを、彼はあわてて引きとめて、きいた。
「君はいくら小遣いをもらうの?」
「一日二百円」
「へえ……? お父さんの商売は……?」
「ジープを作ってる」
彼はびっくりして口も利けなかった。が、喫茶店を出て町を歩いていると、玩具屋で金属製のジープの玩具を売っていた。これだなと、はじめて釈然とした途端、彼は新事業を思いついた・・・