閉じる

閉じる

菊池 寛

差押へられる話

読み手:水野 久美子(2025年)

差押へられる話

著者:菊池 寛 読み手:水野 久美子 時間:9分46秒

 私は、所得税に対して不服であつた。附加税をよせると、年に四百円近くになる。私は官吏や実業家のやうに、国家の直接な恩恵を受けてもゐないのに、四百円は、どんな意味からでも、取られすぎると思つた。文士など云ふ職業は、国家が少しも歓待もしなければ、保護奨励もしない。奨励しないどころか、発売禁止だとか上演禁止だとかで脅してゐながら、その上収入に対して、普通の税率を課するのは、怪しからないと思った。
 私の昨年の所得決定額は、日本一、二の富豪安田某の四十分の一であり、渋沢栄一氏の四分の一であつたので憤慨した・・・

Copyright© 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.