小川 未明 作 花と少女読み手:坂井 あきこ(2025年) |
ある日のこと、さち子は、町へ使いにまいりました。そして、用をすまして、帰りがけに、ふと草花屋の前を通りかけて、思わず立ち止まりました。
ガラス戸の内をのぞきますと、赤い花や、青い花や、白い花が、みごとに、いまを盛りと咲き乱れていたからです。
まだ、春にもならなかったので、外には、寒い風が、しきりに吹いていました。しかし草花屋の温室には、スチームが通っているので、ちょうど五、六月ごろの雨のかかったように、しずくがぽたりぽたりとガラス戸の面を伝わって、滴っているのでした。
これらの花は、いずれも、もとは熱帯地方からきたので、こんな寒いときには、咲かないものばかりでした。太陽が、もっと近く、そして、風がやわらかになり、暖かくならなければ、圃には咲かないのでした・・・