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小川 未明

花と少女

読み手:坂井 あきこ(2025年)

花と少女

著者:小川 未明 読み手:坂井 あきこ 時間:13分35秒

 ある日のこと、さち子は、町へ使いにまいりました。そして、用をすまして、帰りがけに、ふと草花屋の前を通りかけて、思わず立ち止まりました。
 ガラス戸の内をのぞきますと、赤い花や、青い花や、白い花が、みごとに、いまを盛りと咲き乱れていたからです。
 まだ、春にもならなかったので、外には、寒い風が、しきりに吹いていました。しかし草花屋の温室には、スチームが通っているので、ちょうど五、六月ごろの雨のかかったように、しずくがぽたりぽたりとガラス戸の面を伝わって、滴っているのでした。
 これらの花は、いずれも、もとは熱帯地方からきたので、こんな寒いときには、咲かないものばかりでした。太陽が、もっと近く、そして、風がやわらかになり、暖かくならなければ、圃には咲かないのでした・・・

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