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中野 鈴子

五十の春に 2

読み手:河内 麻友子(2025年)

五十の春に 2

著者:中野 鈴子 読み手:河内 麻友子 時間:1分36秒

いまようやくここまで歩いてきたところだ
誰かが呼んだと思うときもあったが
それは空耳だった
振り返って返事をしているわたしに
呼び止めたと思った人は気のつかぬ如く
とっとっと先の方を歩いて行った
わたしは一人とぼとぼここまでたどりついた
花の咲く頃には却って身を細くして
自動車をよけるような恰好になったものだ
ようやくここまでたどりつき
山道にさしかかったところだ
この山道を入ってゆくと道が分からないようにもなったり
高い崖や 危うい海岸へ出るようなことがあるかも知れない

誰もわたしを呼び止めないように
もう返事をするひまもない


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