中谷 宇吉郎 作 果物の天国読み手:手塚 未紗(2025年) |
この夏、アメリカの友人から妙なことを頼まれた。それは岡山の白桃と二十世紀とを食べておいてくれ、という依頼なのである。この男は、前に日本へ一度来たことがあるが、アメリカへ帰ってからも、どうしても忘れられないのは、白桃と二十世紀との味であるという。ところが、どうしてもあれは、アメリカまで送ってもらうことは出来ない。それで日本へ帰ったら、代りに食べておいてくれ、という依頼なのであった。
日本では、アメリカを果物の天国のように誤解している人がよくある。しかし種類の豊富な点、味のよい点では、日本は果物の天国である。それもこの二、三十年来、とくに果樹の栽培技術が発達したためで、私たちの子供の頃からみると、まるで違った見事な品種が、次ぎ次ぎと出て来ている・・・