坂口 安吾 作 家康読み手:水野 久美子(2025年) |
徳川家康は狸オヤジと相場がきまっている。関ヶ原から大坂の陣まで豊臣家を亡すための小細工、嫁をいじめる姑婆アもよくよく不埓な大狸でないとかほど見えすいた無理難題の言いがかりはつけないもので、神君だの権現様だの東照公だのと言いはやす裏側で民衆の口は狸オヤジという。手口が狸婆アの親類筋であるからで、民衆のこういう勘はたしかなものだ。
けれども家康が三河生来の狸かというと、そうは言えない。晩年の家康は誰の目にも大狸で、それまで家康は化けていたというのだが、五十何年も化けおおせていた大狸なら最後の仕上げももうすこしスッキリとあかぬけていそうなものだ・・・