閉じる

閉じる

山川 方夫

歪んだ窓

読み手:堀口 直子(2025年)

歪んだ窓

著者:山川 方夫 読み手:堀口 直子 時間:12分8秒

 朝からの雨が窓を濡らしている。アパートの小暗い部屋の中で、レーン・コートを出し手ばやく外出の仕度にかかる姉を、彼女は隅っこから目を光らせて見ていた。
「いいわね? じゃ、ちゃんとおとなしくお留守番をしててね。すぐ帰ってくるから」
 姉はいった。彼女は答えない。が、姉はそんな妹には、すっかり慣れっこになってしまっていた。そのまま扉に向った。
 突然、彼女は低い声でいった。
「……もしもよ、もし佐伯さんが結婚してくれっていったら、お姉さん、結婚する?」
「まあ、なにを考えているの? あんたったら……」
 姉はおどろいた顔で妹の目を見た。が、彼女はその姉の顔に、一瞬、うろたえた色がはしったのを見のがさなかった。……やっぱりそうなんだわ。お姉さん、あの男と結婚するつもりなんだわ・・・

Copyright© 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.