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上村 松園

四条通附近

読み手:ミカド ココ(2025年)

四条通附近

著者:上村 松園 読み手:ミカド ココ 時間:4分45秒

 四条柳馬場の角に「金定」という絹糸問屋があって、そこに「おらいさん」というお嫁さんがいた。
 眉を落としていたが、いつ見てもその剃りあとが青々としていた。
 色の白い、髪の濃い、襟足の長い、なんとも言えない美しい人だった。
 あのような美しい、瑞々した青眉の女の人を、わたくしは母以外に識らない。

 お菓子屋の「おきしさん」も美しい人であった。面屋の「やあさん」は近所でも評判娘だった。
 面屋というのは人形屋のことで、「おやな」という名であったが、人々は「やあさん」とよんだ。
 舞の上手な娘さんで、ことに扇つかいがうまく、八枚扇をつかう舞など、役者にも真似ができないと言われたほどで、なかなかの評判であった・・・

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