閉じる

閉じる

夢野 久作

ビルディング

読み手:野口 良子(2025年)

ビルディング

著者:夢野 久作 読み手:野口 良子 時間:5分9秒

 巨大な四角いビルディングである。
 窓という窓が残らずピッタリと閉め切ってあって、室という室が全然、暗黒を封じている。
 その黒い、巨大な、四角い暗黒の一角に、黄色い、細い弦月が引っかかって、ジリ、ジリ、と沈みかかっている時刻である。
 私はその暗黒の中心に在る宿直室のベッドの上に長くなって、隣室と境目の壁に頭を向けたまま、タッタ一人でスヤスヤと眠りかけている。
 私は疲れている。考える力もないくらい睡むたがっている。
 私の意識はグングンと零の方向に近づきつつある・・・

Copyright© 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.