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芥川 龍之介

杜子春

読み手:凧野 頓太(2015年)

杜子春

著者:芥川 龍之介 読み手:凧野 頓太 時間:38分33秒

   一

 或春の日暮です。
 唐の都洛陽の西の門の下に、ぼんやり空を仰いでゐる、一人の若者がありました。
 若者は名は杜子春といつて、元は金持の息子でしたが、今は財産を費ひ尽して、その日の暮しにも困る位、憐な身分になつてゐるのです。
 何しろその頃洛陽といへば、天下に並ぶもののない、繁昌を極めた都ですから、往来にはまだしつきりなく、人や車が通つてゐました・・・

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