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芥川 龍之介

食物として

読み手:宮澤 幸子(2016年)

食物として

著者:芥川 龍之介 読み手:宮澤 幸子 時間:1分59秒

 金沢の方言によれば「うまさうな」と云ふのは「肥つた」と云ふことである。例へば肥つた人を見ると、あの人はうまさうな人だなどとも云ふらしい。この方言は一寸食人種の使ふ言葉じみてゐて愉快である。
 僕はこの方言を思ひ出すたびに、自然と僕の友達を食物として、見るやうになつてゐる。
 里見弴君などは皮造りの刺身にしたらば、きつと、うまいのに違ひない。菊池君も、あの鼻などを椎茸と一緒に煮てくへば、脂ぎつてゐて、うまいだらう。谷崎潤一郎君は西洋酒で煮てくへば飛び切りに、うまいことは確である・・・

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