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上村 松園

あのころ -幼ものがたり-

読み手:松岡 初子(2018年)

あのころ -幼ものがたり-

著者:上村 松園 読み手:松岡 初子 時間:18分17秒

   父

 私が生まれたのは明治八年四月二十三日ですが、そのときには、もう父はこの世にいられなかった。
 私は母の胎内にあって、父を見送っていたのであります。
「写真を撮ると寿命がない」
 と言われていた時代であったので、父の面影を伝えるものは何ひとつとてない。しかし私は父にとても似ていたそうで、母はよく父のことを語るとき、
「あんたとそっくりの顔やった」
 と言われたものです。それでとき折り父のことを憶うとき、私は自分の顔を鏡に映してみるのであります。
「父はこのような顔をしていなさったのであろうか」
 そう呟くために・・・

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