夏目 漱石 作 永日小品 モナリサ読み手:立木 由美子(2018年) |
井深は日曜になると、襟巻に懐手で、そこいらの古道具屋を覗き込んで歩るく。そのうちでもっとも汚ならしい、前代の廃物ばかり並んでいそうな見世を選っては、あれの、これのと捻くり廻す。固より茶人でないから、好いの悪いのが解る次第ではないが、安くて面白そうなものを、ちょいちょい買って帰るうちには、一年に一度ぐらい掘り出し物に、あたるだろうとひそかに考えている。
井深は一箇月ほど前に十五銭で鉄瓶の葢だけを買って文鎮にした。この間の日曜には二十五銭で鉄の鍔を買って、これまた文鎮にした。今日はもう少し大きい物を目懸けている・・・