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野村 胡堂

銭形平次捕物控 路地の足跡

読み手:伊藤 和(2019年)

銭形平次捕物控 路地の足跡

著者:野村 胡堂 読み手:伊藤 和 時間:49分25秒

   一

 「銭形の親分さん、お助けを願います」
 柳原土手、子分の八五郎と二人、無駄を言いながら家路を急ぐ平次の袖へ、いきなり飛付いた者があります。
「何だ何だ」
 後ろから差し覗くガラッ八。
「どこか斬られなかったでしょうか、いきなり後ろからバサリとやられましたが――」
 遠灯に透かせば、二十七八の、芸人とも、若い宗匠とも見える一風変った人物。後ろ向きになると、絽の羽織は貝殻骨のあたりから、帯の結びっ玉のあたりへかけて、真一文字に斬り下げられ、大きく開いた口の中から、これも少し裂かれた単衣が見えるのでした。
「大丈夫、紙一枚というところで助かったよ。ひどいことをする奴があるものだね。辻斬にしちゃ不手際だが――」
 平次はさすがに、斬り口の曲った工合から、刃先の狂いを見て取りました・・・

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