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亀井 勝一郎

函館八景

読み手:福井 慎二(2021年)

函館八景

著者:亀井 勝一郎 読み手:福井 慎二 時間:23分24秒

 連絡船に乗つて函館へ近づくと、恵山につらなる丘の上に、白堊の塔のある赤い煉瓦造りの建物が霞んでみえる。トラピスト女子修道院である。やがて函館山をめぐつて湾へ入りかけると、松前の山々につらなる丘の上に、やはり赤煉瓦造の建物と牧場がみえる。これは当別のトラピスト男子修道院である。函館の町を中心にこの二つの修道院をつなぐ半径内が、幼少年時代の私の散歩区域であつた。思ひ出すまゝに、私は最も美しいと思はれた八つの風景を選んでみよう。題して「函館八景」といふ。これは行きずりの旅人にはわからない、函館に住んでみて、はじめて成程と肯れる風景のみである・・・

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