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室生 犀星

寂しき魚

読み手:滝川 ゆきえ(2022年)

寂しき魚

著者:室生 犀星 読み手:滝川 ゆきえ 時間:18分36秒

 それは古い沼で、川尻からつづいて蒼くどんよりとしていた上に、葦やよしがところどころに暗いまでに繁っていました。沼の水はときどき静かな波を風のまにまに湛えるほかは、しんとして、きみのわるいほど静まりきっていました。ただ、おりおり、岸の葦のしげみに川蝦が、その長い髭を水の上まで出して跳ねるばかりでした。
 その沼はいつごろからあったものか誰も知らない。涸れたこともなければ、減ったこともなく、ゆらゆらした水がいつも沼一杯にみなぎっていた。そのうえには、どんよりした鉛筆でぼかしたような曇った日ざしが、晩い秋頃らしく、重く、低い雲脚を垂れていたのです・・・

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