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菊池 寛

マスク

読み手:麻中 恒子(2022年)

マスク

著者:菊池 寛 読み手:麻中 恒子 時間:16分5秒

 見かけだけは肥って居るので、他人からは非常に頑健に思われながら、その癖内臓と云う内臓が人並以下に脆弱であることは、自分自身が一番よく知って居た。
 ちょっとした坂を上っても、息切れがした。階段を上っても息切れがした。新聞記者をして居たとき、諸官署などの大きい建物の階段を駈け上ると、目ざす人の部屋へ通されても、息がはずんで、急には話を切り出すことが、出来ないことなどもあった。
 肺の方も余り強くはなかった。深呼吸をする積りで、息を吸いかけても、ある程度迄吸うと、すぐ胸苦しくなって来て、それ以上はどうしても吸えなかった。
 心臓と肺とが弱い上に、去年あたりから胃腸を害してしまった。内臓では、強いものは一つもなかった。その癖身体だけは、肥って居る。素人眼にはいつも頑健そうに見える・・・

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