閉じる

閉じる

島木 健作

赤蛙

読み手:小林 きく江(2022年)

赤蛙

著者:島木 健作 読み手:小林 きく江 時間:34分19秒

 寝つきりに寝つくやうになる少し前に修善寺へ行つた。その頃はもうずゐぶん衰弱してゐたのだが、自分ではまだそれほどとは思つてゐなかつた。少し体を休めれば、ぢきに元気を回復するつもりでゐた。温泉そのものは消極性の自分の病気には却つてわるいので、私はただ静かな環境にたつたひとりでゐることを欲したのである。修善寺は前に一晩泊つたことがあるきりで、べつにいい所だとも思はなかつたが、ほかに行くつもりだつた所が、宿の都合がわるいと断つて来たので、そこにしたのだつた。
 宿についた私はその日のうちにもうすつかり失望して、来たことを後悔しなければならなかつた・・・

Copyright© 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.