閉じる

閉じる

横光 利一

笑われた子

読み手:まあき、マナミン、ジョン酒巻(2022年)

笑われた子

著者:横光 利一 読み手:まあき、マナミン、ジョン酒巻 時間:11分26秒

 吉をどのような人間に仕立てるかということについて、吉の家では晩餐後毎夜のように論議せられた。またその話が始った。吉は牛にやる雑炊を煮きながら、ひとり柴の切れ目からぶくぶく出る泡を面白そうに眺めていた。
「やはり吉を大阪へやる方が好い。十五年も辛抱したなら、暖簾が分けてもらえるし、そうすりゃあそこだから直ぐに金も儲かるし。」
 そう父親がいうのに母親はこう言った。
「大阪は水が悪いというから駄目駄目。幾らお金を儲けても、早く死んだら何もならない。」
「百姓をさせば好い、百姓を。」
 と兄は言った。
「吉は手工が甲だから信楽へお茶碗造りにやるといいのよ。あの職人さんほどいいお金儲けをする人はないっていうし。」・・・

Copyright© 一般社団法人 青空朗読. All Rights Reserved.