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河合香織さんのポエム

ー くもっこ ー

雨のあめるんのおかげ

読み手:松岡 初子(2021年)

 おひさまのぽっこり、しばらく会えませんでした。
 くもっこは「はぁ~」ため息が出るほどさみしくて仕方がない顔をしていました。
 「どうしたの?、くもっこ。」
おかあちゃんが心配そうにいうと、
「なんだい、そういうこと。
 この季節はね、雨のあめるんがきていて、
 おひさまのぽっこりが、かくれちゃうんだよ。
 でもね、いいことだってあるから、
 くもっこ、雨のあめるんに会ってみるといいよ!」おかあちゃんにそう言われて、くもっこは、雨の中を、うぬぬうぬぬ、ぬれた体が重くって、前に進まないくもっこでした。
 いつか、出会ったことがある強い風のひこうきさんを、みつけると、
「おーい!!わたしわたし!くもっこ〜」
くもっこのかわいい声がかすかに聞こえてきます。
「あの声は、くもっこちゃん?」
あたりをキョロキョロ見まわして、強い風のひこうきさんはくもっこのほうへ向かっていきました。
くもっこは強い風のひこうきさんに飛び乗ると、体がふわっとまたふくれました。そして、かるい体になっていました。
「ねぇ、雨のあめるんに会ってみようと思うの。」
強い風のひこうきさんは
「はいはい、はーい、しっていますよぉ〜」
そう答えました。
「それなら、ぬれなくてすむからいい」とつぶやいて、くもっこは強い風のひこうきさんについて行きました。
3才くらいの男の子がレインコートを着て、水たまりにポチャポチャチャチャ!!、楽しそうに遊んでいます。
その子のママは怒らずに、
「楽しいね!汚れちゃったけど、ママも遊んでいい?」
と聞くと、
「うん!」
男の子は頭をたてにふりました。
ピチャポン!ピチャポン!
あの親子の楽しそうな顔といったら、くもっこも雨のあめるんに早く会いたいなと思ったのでした。
森のもりっこさんのところに行きました。
この前来たとき若草色だった草や葉っぱは、雨のあめるんが降ったので、いきいきと元気よく伸びて、緑色になっていました。
「小さな花が重なりあっているのは?」
くもっこは、まるで自分たちのように重なりあっているあの花が気になって仕方がなかったので、強い風のひこうきさんに聞きました。
「あの花は、アジサイの花なんだよ。この季節しか咲かない花なんだよ。」
強い風のひこうきさんに教えてもらって、くもっこは「あっ、そうか、おかあちゃんは雨のあめるんに会ってみて!と言っていたなぁ。」と思いました。
あの小さいカエルくんたちが、あごを大きくふくらませて、
 ♪はやく ふれふれ
   もっと ふれ♪
カエルくんたちが一斉におまじないの歌を歌うと、雨のあめるんがやってきました。
「はじめまして、雨のあめるん」
と、くもっこが言うと、
「はじめまして、君だね、くもっこちゃんは!くもっこちゃんママから聞いたぞっ!」
と、雨のあめるんが答えました。
そして、
「だーれも、ぼくらのこと、ちぃとも分かってくれないんだ。都会のあめるんたちの中には、悪い煙が入っているんだって。ぼくらは都会から逃げてきたんだよ。」
と言いました。
くもっこには難しくて、まだよく分かりませんでしたが、そのうちに、きっと分かるようになるでしょう。
田んぼの母さんや畑の母さんのところでは、長い間雨のあめるんが降らなかったので、カエルくんものどがカラカラで歌えなかったりしたのです。
だから、雨のあめるんたちは「ぼくらはこういうみんなのことを、ほうっておけない」と話し合いながら、目をうるうるとさせています。
くもっこは、「雨が降らないとだめになっちゃう!何とかしてあげたい」と思って、雨のあめるんに言いました。
雨のあめるんは、アジサイの葉っぱのハンモックにゆられながら、
「くもっこちゃん、くもっこちゃんパパを呼んできて!」
と、言いました。
くもっこは強い風のひこうきさんに、急いでおとうちゃんのところに行きたいとお願いしました。
「はい、わかりました。くもっこちゃんパパのところですね!」
強い風のひこうきさんは、くもっこを乗せて、ヒューヒュー早いスピードを出して飛びました。
くもっこは灰色のおとうちゃんのところに着きました。
くもっこのあわてた様子を見て、おとうちゃんはくもっこをちょこんと背中に乗せると、
「どうした?何があったか、おとうちゃんにゆっくり話してごらん。」
と、言いました。
くもっこは、
「田んぼの母さんのところも、畑の母さんのところも、雨が降らなくて土がひびわれてしまったんだ。」
と話し始めました。
「カエルくんたちはのどがカラカラで歌えなくなってるんだ。どうすればいいの?おとうちゃん!!」
そう言ってくもっこが涙ぐむと、おとうちゃんは、
「そっかそっか、えらかったな、くもっこ。家族みんなを呼ぼう!」
と、うなづきました。
くも一家が集まって、強い風のひこうきさんと、田んぼの母さんのところに行きました。
みんなで重なりあって、力を合わせて、もくもくヒューヒュー!!
「それ!もう一度!」
おとうちゃんのかけ声に、もくもくヒューヒュー!!
すると、ポッタン、ポッタンタタタ、雨のあめるんが降ってきました。
「くもっこ、くもっこちゃんパパたち、みんなありがとう!みんなのおかげだよ。」
と、雨のあめるんは言いました。
くもっこが
「あめるんは、くもっこの中に住んでいるの?」
と聞くと、
「うん!そうだよ!」
と、雨のあめるんが答えました。
くもっこは嬉しくなりました。
雨のあめるんたちが帰ったあとに、虹のにじっこがかかりました。
「わぁーーー!!」
「うーーーっ!!」
「なんて素敵な虹のにじっこなの!」
くもっこは心の中でこうつぶやきました。

「雨のあめるんのおかげだよ!」

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